俺の心嫁知らず

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  待ちに待った土曜日の午後。     聡美は出掛け、俺はネットでブライダルサロンを調べていた。   写真と衣装のセット料金を調べたりしながら、純白のウエディングドレスを着た聡美を想像していた。     夕方になると俺の携帯が鳴り、その着信が藍子ちゃんと解り、小躍りしてしまった。     44歳のオッサンの小躍りする姿を人には見せたくないが、それくらいこの電話を俺は待っていたんだ。   今ここに誰もいなかった事にホッとしながら電話に出た。       「工藤さん、ホントにごめんなさい」     電話の向こうで彼女が悲痛な声で俺に何度も謝っている。   陽子ちゃんの家からの帰り道、車の中から掛けてきたようだ。    聡美はすでに自宅に向かい車を走らせていると、彼女は言っていた。      「いや、謝らなくていいから、藍子ちゃんのせいじゃ無いから……」   そう言う俺の肩はガックリと下がっていた。     聡美は説得に応じなかったのだ。      何度も謝る彼女に、極力声のトーンは変えずに話す俺の背中には、悲しみのオーラが纏わり付いていた。     陽子ちゃんとふたりで必死に説得したが、聡美は二言目には面倒臭いと言い、結局首を縦に振らせる事が出来なかったと彼女は言った。    
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