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「えっと、鍵とタバコと携帯……、あったあった」
理解不能のオッサンが玄関先で突っ立っている間に、彼女は部屋に上がり込み、俺の鍵とタバコと携帯を持ち戻ってきた。
「藍子ちゃん?」
「さぁ、行くわよ」
彼女は俺を引っ張り出すと玄関のドアに鍵をかけ、俺の腕を掴むと歩き出した。
「一体なんだって言うんだ。何処に行くのかも言わないのか?」
「工藤さん、今は言えないの。お願い、黙って一緒に来て」
マンションを出ると、そこに停めてあった彼女の車の助手席に乗せられた。
走り出す車の中、互いに一言も口をきかなかった。
多分、何を聞いても教えてくれないだろうという事は理解出来ていたから、俺は黙っていた。
こんな拉致されたかのような形で、何処に連れて行かれるのかも解らず、世間話という状況でも無い。
彼女も黙ったまま運転している。
桜庭と何かあったのか?
これから行く先に、桜庭とそして聡美がいるのかもしれない。
俺はそう読んだ。
「タバコを吸ってもいいか?」
「どうぞ、どうぞ」
俺達が車内で交わした言葉はこれだけだった。
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