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翌日仕事に出ると、俺の姿を見つけた桜庭が駆け寄ってきた。
「ちょっと工藤さん」
そう言って俺の腕を掴むとフロアから出て行こうとする。
「お、おい、何処行くんだよ」
「喫煙室ですよ!」
(一人でタバコも吸いに行けないのか?)
喫煙室に入ると、そこには煙は残っていたが、人はいなかった。
ポケットからタバコを取り出し火をつけると、桜庭は俺の正面に回り何か言いたそうなそぶりを見せた。
「何だ?」
「子供……」
「子供? まだだよ」
俺は煙を吐き出しそう答えた。
なんだ、俺達に子供が出来るのを待ってるってか?
「いや、あの、俺に子供が出来たんですよ」
「へっ?」
昨夜、彼女から打ち明けられたという。
「で?」
「へへっ。パパですよ、俺」
照れ臭そうに頭を掻きながら桜庭はそう言った。
「あの一件以来、彼女を幸せにしてやれるのは俺しかいないなぁ~なんて思っていて……」
桜庭は、彼女との結婚を漠然ではあるが考えていたという。
「ちょっと順序が逆になっちゃったけど、近いうちに籍入れる事にしました」
「そうか、おめでとう」
そう言いながら、俺は聡美の顔を思い浮かべていた。
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