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ソファに座る俺から、玄関に立ったままの聡美が見える。
「真ちゃんに……」
「聞こえないっ!」
俺の声に聡美の身体がビクッと震えた。
「真ちゃんに、家族を作るのが今のアタシの夢なんだもん。
でも……、作ってあげられないから……」
「だから離婚か?」
聡美は零れる涙を拭おうともせずに大きく頷いている。
「バカか……」
俺は立ち上がると聡美の傍に行き、聡美を連れて再びリビングに戻った。
俺には両親がいない。父親は俺が3歳の時に事故で亡くなり、母親は3年前に病気で亡くなっていた。
兄弟もいない俺には、家族と呼べる者がいなかった。
聡美が家族と言うのはそんな理由からなんだろう。
「俺の家族? お前がいるじゃないか」
「でも、アタシだけじゃなくて、真ちゃんの血が流れた子供を生みたい。でも、アタシじゃ……」
聡美の俺に対する気持ちも判らないではない。
だが、コイツはまだ判ってないのか?
「俺はね、お前がいるだけで幸せなんだ。それにあの写真に永遠の愛を誓ったんだろ」
オレはリビングに飾ってある写真を見て言った。
俯いたままの聡美は、黙ったままだった。
「聡美?」
「聞こえ…ない……」
(はぁ?)
聡美が俺の胸に飛び込んできて、バランスを崩した俺はソファに倒れ込んだ。
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