オッサンは辛いぜ

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  一度目の結婚では、俺も子供が欲しいと思っていた。   いや、結婚したら次は子供だと、ごく当たり前にそう思っていた。    当時の妻は仕事が好きで、子供を産む事は嫌がった。   あの頃、妻の職場には育児休暇など取れるような雰囲気は無く、子供が出来たら辞めるのが社内での暗黙の了解になっていた。   仕事に生き甲斐を感じていた彼女には、子供はいらない存在だった。   その事で何度も彼女と衝突した。   絶対に仕事を辞めたくないと言い張った妻とは、ギクシャクしだして、結局別々の道を行く事になったんだ。        ん? 待てよ。   今子供が生まれたとして俺が60歳になった時、その子供はいくつだ?   まだ成人にもなっていないじゃないか。   そりゃそうだ。あの頃よりも俺は歳をとっているんだから。      もし俺の身に何か起きて、聡美と子供を残してあの世にでも逝った日にゃ、笑い事じゃないじゃないか。   聡美ひとりなら再婚だって簡単だろうし、しかし子供がいたらそれも難しいかもしれない。   そんなんじゃ俺だって、死んでも死にきれない。     俺は急に不安になった。    幸せにしてやりたいのに、途中でそれが断たれあとの聡美と子供を想像すると、このまま子供を作ってもいいのか?とさえ思えてきた。      聡美。   悪いが子供は諦めてくれ。     俺は作らない事に決めた。   聡美の人生を不幸には出来ない。      「真ちゃん、何考えてるの?」   「い、いや別に」     俺は慌てて目の前のコーヒーカップに口をつけた。      
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