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近所の公園にさしかかると、聡美はそのまま公園に入って行った。
握られた俺の手は、聡美を追って同じ方向へと向かう。
ベンチに近付くと、俺の手を離した聡美はそこに駆け寄り腰掛けた。
そして自分の隣をポンポンと叩き、俺にも座るように促した。
「見て、間に合った」
夕日を見ながらそう言う聡美に俺は頷いた。
遠くに見える山に少しずつ太陽が落ちていく。
「馬鹿者っ!」
(はぁ?)
缶コーヒーに口をつけようとした俺は、それを持ったまま隣を見た。
「真ちゃんのバカタレ!」
今度は名指しで馬鹿と言われ、さっきのが聡美の独り言ではなく、もちろん聞き間違えでもない事が判った。
「アタシは幸せだよ。真ちゃんは?」
(まいったな)
どっか抜けてるくせに、こういう事には何故か察しがいい。
「真ちゃん言ったよね?アタシが傍にいるだけで幸せだってさ」
「ああ、言った」
「じゃ、ここで言って。幸せだって」
俺は幸せだ。しかし、俺の幸せは聡美の犠牲の上に成り立っていると思うと、口に出せない。
俺は黙っていた。
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