夕日とベンチ

8/10

2582人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
  近所の公園にさしかかると、聡美はそのまま公園に入って行った。   握られた俺の手は、聡美を追って同じ方向へと向かう。     ベンチに近付くと、俺の手を離した聡美はそこに駆け寄り腰掛けた。   そして自分の隣をポンポンと叩き、俺にも座るように促した。     「見て、間に合った」   夕日を見ながらそう言う聡美に俺は頷いた。     遠くに見える山に少しずつ太陽が落ちていく。      「馬鹿者っ!」     (はぁ?)     缶コーヒーに口をつけようとした俺は、それを持ったまま隣を見た。     「真ちゃんのバカタレ!」     今度は名指しで馬鹿と言われ、さっきのが聡美の独り言ではなく、もちろん聞き間違えでもない事が判った。     「アタシは幸せだよ。真ちゃんは?」     (まいったな)     どっか抜けてるくせに、こういう事には何故か察しがいい。     「真ちゃん言ったよね?アタシが傍にいるだけで幸せだってさ」   「ああ、言った」   「じゃ、ここで言って。幸せだって」     俺は幸せだ。しかし、俺の幸せは聡美の犠牲の上に成り立っていると思うと、口に出せない。     俺は黙っていた。  
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2582人が本棚に入れています
本棚に追加