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「ただいま」
玄関を入るといい匂いが鼻を擽る。
「真ちゃん、おかえり」
聡美がキッチンから顔を出した。
「ん? 今日は肉か?」
そのいい匂いの正体を探ると、聡美は頷きニッコリと笑顔を俺に向ける。
あ……。
もうそんな時期?
「真ちゃんには精力つけてもらわなくちゃ」
「いや、今日は疲れてるから……」
「ダーメッ!」
寝室に向かう俺の後ろをついてやってきた聡美は、スーツの上着を受け取りハンガーに掛けていた。
クローゼットの扉に備え付けられている鏡に映る俺とは逆に、聡美はニコニコして鼻歌まで披露していた。
(どうすっかな……)
「さぁ、真ちゃん御飯食べよ」
聡美に促され食卓テーブルについた。
結婚して半年。聡美も随分と料理のレパートリーが増えた。
結婚した当初は、小学生でも出来そうなモノしか作れなかったのが、週末俺と一緒に作る事でその数も増えていった。
今日の食卓にはこってりとした、44歳の男の胃には重い料理が並んでいる。
このこってり料理は聡美の排卵期の間続く。
こっそり胃薬を飲んでいる事を聡美は知らない。
今晩、俺は逃げる事が出来るのか?
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