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「何があったのさ?」
聡美が聞くと、彼女は待ってましたとばかりに話し出した。
やはり彼女はご主人と喧嘩をして家を飛び出して来たと言う。
その喧嘩の理由は、さっきまで俺達の会話に出てきていた子供の名前で揉めていて、とうとう喧嘩になったそうだ。
たかが名前で喧嘩して家を飛び出す程の事かと正直思ったが、本人にしたら至って真剣な事で、鼻息を荒くして彼女は話しているので俺は相槌を打つしかなかった。
「真剣に考えた名前なんだから、どっちを付けたっていいじゃん」
「よくないよ!」
「あんまり興奮するとお腹によくないんじゃないか?」
そう言って落ち着かせようとしても、彼女の鼻息は荒くなるばかり。
「だって、だって……」
そう言うと、みるみるうちに彼女の目に涙が溢れ、とうとう一粒流れ落ちてしまった。
ティッシュを差し出すと彼女はそれで頬の涙を拭いた。
ご主人の考えた名前は画数が悪いと、彼女は言う。
(そんな事かよ……)
名字と合わせると画数が悪い事を言ったところ、女の子なんだから結婚したら名字も変わるんだしいいじゃないかと言われ、彼女にしたら彼の子供へ対する親としての気持ちが薄いと感じたと言う。
「父親になるんだからさ……」
ポツリとそう言った。
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