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俺にも状況がよく見えていない。
何故なら聡美も慌てふためき、電話の向こうから聞こえてくる話から、とにかく生まれてくる事しか判らなかった。
詳しい事は病院に行ってみない事にはなんとも状況は掴めない。
「藍子……、大丈夫なんだろうか」
「大丈夫だ。病院にいるんだから心配するな。それより聡美が何度お前の携帯に電話しても繋がらないって言ってたけど」
「あ! 会社に忘れてきた……」
「よりによってこんな時に……、バカタレ」
俺は真っ直ぐ前を向いたままそう言った。
病院の駐車場に車を停めて入り口に向かうと、その玄関先に聡美がいて、俺の姿に気付くと駆け寄ってきた。
「真ちゃん」
「で、どうなってんだ?」
「聡美ちゃん、藍子は?」
藍子ちゃんは、お見舞いに来てお喋りしているうちに陣痛が始まったという。
病院に来る時から少しお腹が張るのと、時々軽く痛む感じがあったという。どうやらその時から始まっていたようだ。
特別おかしな事になってるわけではない事を知り安心した。
「あ、桜庭さん、入院の準備してあるボストンバッグがあるから持って来てって、藍子が言ってたの」
「わ、判った。取ってくる」
桜庭は病院にも入らず、そのまま止まっていたタクシーに乗って行ってしまった。
「ねぇ、真ちゃん。なんで桜庭さん割り箸持ってんの?」
「気にするな。それより藍子ちゃんのとこにいてやらなくていいのか?」
「あ、そうそう。藍子のママが来るまでいてあげなくちゃ」
俺達は中へと入っていった。
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