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「そろそろ帰ろうか」
聡美にそう声をかけたのと同時に、後ろから何かがぶつかる感触があり、そしてそれが小さな子供である事が解った。
広い公園内を走り回る男の子が、俺にぶつかりそのまま転んだのだ。
「大丈夫か!」
転がったまま腹ばいになり、泣くわけでもないその子供を抱きあげる。
「強いな、さすが男の子だ」
そう言って立たせると、服にもズボンにも砂がついていてそれをほろってやり、掌についた砂もほろってやった。
触れた小さな手は子供特有の柔らかさだった。
「すいませーん」
赤ん坊を乗せたベビーカーを押しながら近付いてきた女性が、声をかけてきた。
この子供の母親らしいその女性が、俺達に向かい頭を下げ礼を言うと子供を連れて歩いていった。
「子供の手は小さいんだな」
そう言いながらさっきの子供の手の柔らかい感触を思い出した。
「頑張らないとな」
ふと口から出てきた言葉は、別に気負って言ったわけじゃない。
俺の元にやってくる小さな手が何を掴むのか、どんな幸せを掴むのか見たい。
そのためにも、俺がしてやれる事は全てしてやるつもりだ。
「アタシも頑張る」
聡美は俺を見て口にした。
「ああ、一緒に楽しんで行こうぜ。そして、小さな手がどんな幸せを掴むのか二人で見届けてやろうな」
「うん、ずっと真ちゃんと見ていく」
俺達の影はさっきよりも少し長くなった。
俺は幸せだな……。
繋がる聡美と俺の手を、もっと強く結んでくれる小さな手を想い、俺は心からこの幸せを噛み締めていた。
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