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楢橋の顔を見た時から、冷や汗は止まず、声を聴いてから気分が悪くなっていた。
(どうして…俺の名前を知ってるのだろう?)
俺は知らない(はず…?)
「貴也?」
隣の席から声を掛けて来た。
「ん…?」
辛うじて顔を横に向ける事が出来た。
視界の端には、転入生の俺を責めるような視線が入って来たけれども…
「大丈夫?顔色悪いみたいだけど?」
心配そうに俺を見つめている蓮華に
「ちょっと…無理かも…保健室に行ってくる」
「わかった。先生の方には私から言っておくよ。」
「ごめん…じゃぁ、頼んだ」
そう言って、俺は席を離れ教室を出て行った。
変わらず、転入生の視線を背に受けながら。
「…熱は無いみたいね。どうする?」
保健の先生は水銀製の体温計を見つめながら言った。
「どうするって?」
「一時限だけ、ここで休んで行くか、それとも、大事をとって早退するかって事よ。」
「…それじゃ、早退する事にします。」
「なら、この紙を担任の先生に渡して貰えるかしら?」
そう言って、一枚の紙を受け取った。紙には早退届と書かれていた。
俺は保健室を出て、職員室に向かった。
流石に授業中と言う事だけあって、先生はまばらだった。
職員室の中を見回したけれども、担任の姿を見る事が無かった。
そんな時だった。
「君、もう授業は始まっているじゃないか。こんな所で何をしている?」
近くに居た教師が話し掛けてきた。
「これを、担任に渡すように言われたもので…」
そう言って早退届を見せた。
「そうか、なら私が預かっておこう。先生には私から渡しておくから、君はもう帰りなさい。」
「あ…ありがとうございます。」
俺は先生に早退届を預け職員室を後にした。
一度、教室に鞄を取りに戻ろうかと思ったが、転入生の顔を見ることになるのかと思うと億劫になり、そのまま帰る事にした。
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