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「……どうしてこちらに?」
ここはトキ以外立ち寄るほどの場所ではないことは少年も知っているだろう。
日舞という特技を練習するためにできたこの格技場はトキ専用の建物。
「……」
少年は黙ったまま、左手首を右手で押さえていた。
長い前髪で瞳を覆うかのようで表情は見えない。
「言いたくなければ言わなくても構いません」
なんとなくトキは少年を抱く。
冷たい少年の体を暖めるようにトキは優しく優しく抱き締めていた。
「もしよろしければ私の部屋に来ませんか?」
このまま一人にしておきたくない。
トキは不安に駆られ、尋ねてみる。
返事は少年が頭を振るサインだった。
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