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シャワー室の扉が開く音がし、すぐに少年はトキの方へと来た。
その場に座らせるとトキは簡単に作れるハチミツ入りのホットレモンティーをガラスコップに注ぎ少年に手渡した。
「春といってもやはり雨が降ると寒いものですね」
少年はトキを見つめ、数秒遅れてからうなずく。
無口な子だなと最初は思ったがそうでもないらしい。
前髪で表情が見えないが微かに微笑んだ気がした。
それがときにはうれしかった。
頬が緩み、自然と笑う。
心の中で安心していた。
「一応、怪我の手当てもしましょうか」
救急箱を持ってくる。
少年の腕に手を添え、消毒液を触れるか触れ中程度でつけていく。
傷は見たからには浅いが痛むらしい。
少年が我慢しながらも苦痛の表情が時々見られる。
カッターナイフで切られた傷はまだ血をにじませていた。
傷の上にガーゼをのせ、包帯で巻き固定する。
とは言うものの、ただ単にこれは身体の傷であって心の傷を癒したわけではない。
少年の心の傷は直ぐに手当てできそうにないだろう。
前髪で覆われた顔は微かに見える限りではあどけない可愛らしい少年だ。
濃灰色のくせのない髪と一瞬見えた笑みは甘く優しい。
前髪をもう少し切ればさぞかし綺麗だろう。
何が彼をこうさせたのか。
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