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『大丈夫?……あぁ、怪我をしているね。今助けてあげるから泣かないで』
中等部の頃だ。
あの日は小等部と中等部合同の体育祭だった。
トキはグランドの端で泣いている小等部の少年を見つけると、たまたまポケットに入っていたあめ玉を差し出した。
真っ赤なイチゴ味のあめ。
すぐに少年は泣き止んでくれた。
そして、あめを口に含むと可愛らしく笑みを浮かべてくれた。
『さあいこう』
トキは少年をおぶり保健室へ向かう。
『僕はトキ。君は……そうカラス君だね。なんだか君とは初めて会った気がしないな。もしかしたら、運命とか……』
濃灰色の髪に優しい光を持った瞳。
可愛らし顔は笑うとさらに愛らしくなる。
少年に恋をしたんだ。
トキは思った。
──今、彼はどこにいるんだろう。
今は何をしているんだろう。
──彼は……彼の名前はたしか。
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