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「いや!……僕は影なんだ、だから」
悲痛の叫びをあげ、あつい滴を彼は瞳からこぼす。
トキは思わず彼の腕を引き力強く抱き締めた。
この手から逃れられないように力をこめる。
──もうはなしたくはない。
「カラス……君がなんと言おうと君は僕の光だ。影なんかじゃない。……君が好きだ」
耳元で囁かれたトキの声は大人びた青年のよう。
「ト…キさん……。トキさん、トキさん」
カラスは壊れたオルゴールのように何度も愛しい人の名前を呼ぶ。
生暖かい涙はほんのり甘い。
そうだ、これは嬉し涙だ。
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