52人が本棚に入れています
本棚に追加
時は戦国、奥州の城で梵天丸は空を見上げていた。
「梵天丸様」
梵天丸は背後から聞こえた声に振り向き答える。
「どうした、小十郎」
片目の梵天丸の瞳に、小十郎が写った。
「お体が冷えます故、そろそろ御部屋に」
小十郎の言葉に、梵天丸は一度名残惜しそうに空を一目すると目をつむり呟いた。
「なぁ小十郎。俺は、死んだ方がよかったのだろうか」
ぽつりとこぼされたその言葉に、小十郎の目は全開に見開かれる。
「疱瘡にかかって失った右目。右目を犠牲にして生き残った意味とは何だ?」
不治の病と言われた疱瘡にかかり、生死の境から帰還した梵天丸を迎えたのは、自分を蔑む母だった。
一番愛されたい者から愛されない自分などに、生きている意味などあるのか。
「梵天丸様っ……」
今の小十郎には何もいえなかった。励ます言葉をうまく見つけられなかったのだ。
「……悪かった。今のは忘れてくれ」
梵天丸はそう悲しげに微笑み呟くと、部屋の中へと入っていく。その姿を小十郎は見送った。
「梵天丸様……!」
小十郎はやりきれぬ思いに拳を握りしめていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!