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「これは、ひどいな」
警部は、家に入るなり顔をしかめ、そう言った。朝七時。エス氏の自宅である。
「ええ、至近距離から散弾銃で腹に一発、だそうです」
部下も同じように顔をしかめ、そう答えた。
確かに、殺されたエス氏の様子はそんな感じだ。大きく吹っ飛ばされたようで、玄関先で撃たれたはずが、約2メートル先の廊下に倒れている。
「それで、犯人を見たものはいないのか?」
「はい。なにぶん田舎なので、近くに他の家もなく、しかも犯行時刻は昨日の深夜。エス氏が家に帰ってきてすぐ訪ねてきて、発砲したようです。犯人を見るどころか、銃声を聞いたものもいません」
「やっかいだな・・・、第一発見者は?」
部下は手帳をめくり、
「ここから歩いて5分くらいのところに住む男です。発見は今朝6時。毎朝一緒にウォーキングに行くらしく、今朝もいつも通り誘いに来たところで死体を見つけたようです。ですが、その男の昨夜のアリバイはしっかりしていますね」
と説明した。警部は自慢の髭をいじりながら、
「それなら、容疑者はいないのか?」
と聞いた。
「いるにはいます。エヌ氏という男で、エス氏とはお金関係のトラブルがあったそうです。ただ、証拠はありません」
「証拠か・・・」
警部はエス氏の死体を見た。よそ行きの綺麗な格好で、スーツにカッターという出で立ちだ。もっとも、今では見るも無惨な状況となっているが。
周りに目をやると、エス氏の体の先、さらに2メートルほどのところに、帽子が落ちている。帽子をかぶっていたが、吹っ飛ばされた衝撃で外れた、というところだろう。
他にも、手に持っていたと思われる鞄などが死体の周りに落ちていた。
「まあ、とりあえず、そのエヌ氏とやらに話を聞いてみるか」
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