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――夜霧が朝日に打ち消されて、街が徐々に色づいてくる頃。
夜の勤めを終えた蛾を想起させるケバケバしい化粧の女が、一人裏通りを歩いていた。
相当疲れが溜まっているのだろう、女はだるそうに瞼を半分閉じながら、定まらない足取りで歩を進めている。
すると、女は突然柔らかい何かにつまづいて転倒した。
「っつぁ……うん?」
生肉を踏んだような感触だった。
石畳の上に手をついた女は、手のひらが妙にぬるぬるするのを感じる。
「やだ、きたな――」
顔を上げた瞬間、女は卒倒してしまいそうになった。
自分がつまづいたもの。
それは全身をズタズタに切り裂かれた、“人間だったであろうもの”だったのである。
死体を見た感想が推測の形なのは理由があった。
その死体は顔までズタズタに切られていたのだが、何故か顔だけは丁寧に縫合した後があって、まるでフランケンシュタイン――いや、そんな生易しいものでもない。
ギッチリと紐で縛られた、ボンレスハムのようになっていたのである。
女の絶叫が、ロンドンの夜明けの合図となった――
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