1.パッチワークマン―①

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工業地帯から吐き出された煙がもうもう立ち上り、空は悪魔でも住んでいそうなグロテスクな様相を示していた。 ロンドンの街は、今日も暗い。 産業革命がもたらした黒煙と、霧が発生しやすい気候のせいで、ここ数日に至っては晴れ間のカケラもないくらいだった。 そんな鬱屈した空気の中を、若い女性が古びた街並みをバックに歩いていく。 年は20前後といったところで、ショートカットの栗色の髪よく似合っていた。 そして女性が足を止めたのは、お化けでも出そうなオンボロアパートの前。 そのアパートの2階の窓には、外に文字が見えるようにしてある張り紙が貼ってあった。 『こちらアルバート探偵事務局』 既にその文字はかすれ気味になっていて、果たして本当にそんな探偵事務局があるのか、それすら怪しい雰囲気だった。 しかし、女性は引き返すことはしない。 ギュッと痛いくらいに唇を噛み締めると、思い切ってアパートの階段を駆け上っていく。 「すみません」 そして、女性が2階の扉を開けた時だった。 高速で飛んでくる立方体。 女性のこめかみの脇を、手垢で汚れたルービックキューブが掠めていった。
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