幼記憶

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幼記憶

「それはそんなにも、恐いことなのでしょうか。そんなにも、悲しいことでしょうか。淋しいことでしょうか?」  何度問われても、そればっかりはわからない。何故なら僕はもうすっかり根を張ってしまって、僕から伸びた枝の、たくさんの枝先のことでさえ、知ることができないのだから。  いつから僕がこうなってしまったのか、僕にはもう思い出せない。僕は昔 君と同じもので、君と同じ そこに、居た。記憶? それはきっと、それというよりはむしろ何かの蓄積だ。その一番端のほうから、少しずつ欠けていくことを恐れてはいけないけれど。蓄積されたそれを忘れていくことには、名残はないけれど。    何がこんなにも、悲しいのだろうか。  何がこんなにも淋しく  何にこんなに、恐怖しているというのか。  僕はいつか感じていたそれを、また、考えていた。だから君への答えは  そんなにも、である。と、いうことだけ。
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