終息

5/6
前へ
/8ページ
次へ
 今すぐ逃げ出したい衝動に駆られた。  走って、逃げて、次の日まで逃げ切る。あの足音なら行けるんじゃないか?  そう思えるような足取りだった。  しかし、もしもそれが無理だったらと思うと私にはできなかった。  近くで扉の開いた音がした。私の部屋の扉が開いたのだ。  私は部屋の隅の押し入れの中にいた。  ずずずっずずずっと大きな音が聞こえる。鳴き声にも似た、その音に私は泣きたくなった。  何故私がこんな目に……。しかし、泣いたらそれこそ殺されかねない。  私は辛抱強く我慢することにした。  決心した途端に、バンッ! と私の入っている押し入れの扉が開いた。  はっはっはっ。と獣の荒い息のような呼吸音が聞こえる。  ひたりと、手が触れる。私は体の震えを全身全霊で止め、ひたすら我慢した。  恐怖も、震えも、諦めも、絶望も、全て我慢した。  そして、手は離れ、呼吸音が遠ざかるのを感じた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加