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今すぐ逃げ出したい衝動に駆られた。
走って、逃げて、次の日まで逃げ切る。あの足音なら行けるんじゃないか?
そう思えるような足取りだった。
しかし、もしもそれが無理だったらと思うと私にはできなかった。
近くで扉の開いた音がした。私の部屋の扉が開いたのだ。
私は部屋の隅の押し入れの中にいた。
ずずずっずずずっと大きな音が聞こえる。鳴き声にも似た、その音に私は泣きたくなった。
何故私がこんな目に……。しかし、泣いたらそれこそ殺されかねない。
私は辛抱強く我慢することにした。
決心した途端に、バンッ! と私の入っている押し入れの扉が開いた。
はっはっはっ。と獣の荒い息のような呼吸音が聞こえる。
ひたりと、手が触れる。私は体の震えを全身全霊で止め、ひたすら我慢した。
恐怖も、震えも、諦めも、絶望も、全て我慢した。
そして、手は離れ、呼吸音が遠ざかるのを感じた。
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