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「……幸助君は……この後何か予定ある?」
沙羅は偽りない笑顔のままで俺に尋ねてくる。
……それが……俺には痛い……
「……いや……ないけど……」
そもそもここに連れて来られた理由がまだ分からない。
何も言われてないし、俺は何も持ってない。
やる事は……何もない。
「……よかった……なら少し散歩しない?」
沙羅は安心したかのように胸に手を当てると、今度は信じられないような事を言い出した。
……散歩……?
俺と一緒に……?
なんで?俺の事を嫌ってるんじゃないの?
君のその笑顔はどういう意味なの?
……幸せなんて……望んじゃダメなのに……
「……うん……」
卑しくも、沙羅との時間を望んでしまった。
「髪……伸びたね」
駅を離れて、細い道路を会話もなく歩いていると、沙羅が俺を見てそう呟いた。
「ずっと髪切らなかったからな」
「そうなんだ……」
俺が答えると、沙羅は視線を進行方向に向ける。
……相変わらず……横顔も綺麗だ……
「……幸助君……元気そうでよかった」
沙羅は視線を変えずに、軽く微笑んだ。
……そっか……今気付いた。
これが沙羅の性質なんだ。
例え苦手な相手でも、沙羅は気遣ったり微笑んだりしていた……
俺が特別な訳じゃない。
そんなの……当たり前だけど……
「……沙羅も……元気そうでホントによかった」
思わず力が篭ってしまった。
でも仕方ない、ホントに不安だったから。
あんな振り方して、涙いっぱいに泣かれて、沙羅が殻に閉じこもらないかずっと心配だった。
でも、今の沙羅は笑顔が溢れてて、ちゃんと前に進めている。
……だから……すごく安心した……
ふと、沙羅が立ち止まった。
「沙羅?」
不思議に思いながら振り返ると……
沙羅は目に涙を浮かべて震えていた。
「……もう……我慢できないよ……」
沙羅は俺に抱き着いてきた。
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