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一九四二年七月十日―
独逸占領下のウクライナ西部ヴィーンヌィツャ―
一年前、電撃的な進撃で独逸軍はこの地域一帯を占領し、今では戦線の遥か後方地帯となってしまった、人口十万余りのヴィーンヌィツャ州都のこの街に、見慣れぬ中央亜細亜系の顔付きをした一団が、市街地のとあるパン屋に入っていった。
「ズドラーストヴィチェ(こんにちは)。」
「プリヴィエート(やあ)。」
店番をしていた女将と思われる中年の女が、入って来た男達を見て普通の客と違うと感じ、奥に居る店主に声をかけた。
「あんた!ちょっとこっちに来て!」
「…ん、どうした?…なんだ、あんたらは?」
「あんたが店主のヤコブか?」
「あぁ、そうだが、あんたら…!」
「昨夜、ロマノフの亡霊がオデッサに出たとさ。」
「…ほぉ、そりゃキエフの間違いだろう…。お前達が例の客人だな?」
「あぁ、しばらく世話になるがよろしく頼む。」
「そんな恰好で、この辺をうろうろされちゃあ目立って仕方がねぇな。こっちに来てくれ。」
店主は、彼らを店の奥へ招き入れ地下の倉庫へと案内した。
その一団とは、我が新生帝国から派遣された中野学校出身の特殊部隊員達であり、パン屋の店主のヤコブは元ウクライナ人民共和国の軍人で、今では後のウクライナ蜂起軍(UPA)の地下組織の活動家であったのだ。
これは後に毛利少佐から聞いた、ヒットラー暗殺計画『閃光作戦』の一部始終を記した、私の記録資料である。
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