第一章 ―地下組織―

6/7
前へ
/9ページ
次へ
ヘニング・フォン・トレスコウ大佐は、この当時クリューゲ元帥が指揮する中央軍集団司令部の参謀を務めており、その優秀さは副官のシュラーブレンドルフ中尉が、 「彼には、善良・賢明・勤勉の三つが揃っていて、しかもそれぞれが刮目に値した。」 と語り、当時独逸国防軍参謀総長であった、フランツ・ハルダー上級大将に 「私にとって、参謀総長の後任に値する人物は、たった一人をおいていなかった。トレスコウをおいて、第二次世界大戦を何とか出来た者は他にはいなかった。」 と、戦後に語らせたほどの逸材であった。 戦後のドイツ連邦では、彼の名にちなんだ通りがいくつも出来、連邦軍兵舎のいくつかにもトレスコウの名が冠んされていた。 その彼は、当時ゲシュタポが名付けた反ヒットラー運動組織、「黒いオーケストラ」の中心的な構成員でもあり、史実では翌年にヒットラー暗殺を実行したが惜しくも未遂に終わった、「閃光作戦」の首謀者であったのだ。 帝科研のヒットラー暗殺作戦の秘匿名「閃光作戦」は、ここからきていたのである。 この事から判る通り、本作戦におけるトレスコウ大佐の役割は大変重要であり、欠くことの出来ない存在だった。 彼は、ミュラー中尉の伝言をメモを録らずに全て暗記して、最後にひとつだけ確認してきた。 「Xデイの午前0時には、全周波数において間違い無く『W』が、発信されるのだな。」 と、…。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

432人が本棚に入れています
本棚に追加