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「より大きな印象」
「そうですね。では、この段落で筆者が述べようとしているのは―――」
印象。
頬杖虚ろ目スタイルで今日も現文の時間を過ごす俺は、その単語を聞いて思うところがあった。
より強い印象を受けると、以前にあった小さな出来事なんていうのは簡単に消え去ってしまう物だと。
まさに俺はその状況下に置かれていて、あることをすっかり忘れていたのだ。
「では次、風上三奈さん」
俺は生徒会長と同じクラス、ついでに言うと席は同じ縦列だった。
俺は窓側、かつ柱がそよ風の進行を妨げず、それでいて不良スタイルを貫く俺みたいな奴には持ってこいである最後列ポジションを獲得していた。
「生命の意識的能力」
「正解です」
三奈はというと、少し腰を浮かせれば見える位置。あの長い黒髪は三奈以外の何者のものでもなく、いそいそとノートに鉛筆を走らせるなかなか真面目な姿を判断材料に交えた結果、確かに我が校の生徒会長なのだ。
春のくせに初夏を思わせる鋭い日光が着実に体力を奪い、しかしそよ風すら吹かない超常熱帯気候に俺と違ってまるで怯まない三奈のその背中には、威厳…か?そういう尊敬に値する何かがあるように見えなくもない。
虚ろ目は授業のためだけではなかった。下敷きであおいでいると、
(きょうや~!)
囁いたのは悪友秀悟だ。
(お前、風上さんと仲良いよな?)
仲、ねぇ。良いとは言えないが、自然に会話できるレベルにはあるかな。
(まあ微妙だ。話せはするが)
すると隣席の秀悟は顔を光らせ、
(だったら一つ頼み事が!)
(何だ)
(テニス部への予算の割当金を増やして欲しいんだよ。先輩に命令されたんだ。生徒会と掛け合わない限りは後にひけねー)
割当金、ねぇ。そうか、各部活、委員会の予算案処理をあの生徒会がやるのか。
(とにかく、風上さんに聞いてみてくれよ。しっかしウチのクラスに生徒会長がいたなんて今でも驚きだ)
後で詳しい額を話す、と言って秀悟は再び寝始めた。
…結果から言うと、んな話授業にわざわざするんじゃねぇといった呆れが心中を大きく占める話であって、それでいて俺には見返りなしである。
ま、こんなときにわざわざ言うってことはそれほど焦って――
「ではこの問を、真島くん」
「…え?」
聞いてなかった。
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