5人が本棚に入れています
本棚に追加
どっかの誰かさんのせいで気をとられて、見事に現代文の時間の珍回答キングに不本意ながら降臨してしまった俺は、シャーペンを高速ノックをしながらその誰かさんを恨んだり、教科書ノートに怨念を込めつつ鞄に放り込むのだった。
然してその誰かさんは現在、そんな俺の知られざる心情を察そうともせず、自分の要求を先攻でぶつけてくるのである。将来ろくな大人に育ちそうにないなコイツは。
「っつーわけでよろしくな!」
馬鹿みたいな歩き方で上機嫌に教室を出ていく秀悟。あの野郎、俺に相槌を打たせる間も作らずベラベラと。中学からのよしみとは言え、場合によっちゃコメカミ殴るぞ。
そうして秀悟が連ねた文を今一度可能な限り整理しつつ、三奈の席へと足を向けた。
三奈は授業中と全く変わらない真面目な態度で次の授業の用意までする優等生となっていた。
こんな三奈に予算案の捏造なんていう話を持ちかけるのは俺の良心的に憚られるが、とりあえず秀悟に恨まれるような結果だけは避けないと、いつの日か俺の上履きに画びょう製の剣山が作成されるだろう。
すると俺が斜め後ろから迫る気配に気付いたのか、三奈がこちらに振り向いた。
すかさず俺は、
「三奈、話が―――」
「あ、境夜!花見のことなんだけど、お弁当はみんなで持ち寄るっていうのはどう?」
……厄介!
これは無理矢理三奈の話になりそうな気が。
「それよりだ、俺のはな――」
「みんな一斉にお弁当開けて、お互いに試食。料理の腕も分かるしこれは面白いわ!」
「俺―――」
「境夜だって料理くらいはできるでしょう?」
「お―――」
「あ、もしできなくても気にすることないわ。これから上手くなれば良いから」
「……そうだな」
俺は折れた。
「そのことも含めて放課後に話し合うから、他にも面白そうなプランがあったらよろしく!」
完全に三奈ペースである。絶対王政を垣間見た気がした。そうして三奈は俺に次の句を続ける隙を与えないかのごとき俊敏さでトイレかどっかに向かうべく教室を後にした。
……仕方ない、三奈には今日中に改めて伝えさえすれば秀悟の野郎も騒ぎはしないだろう。適当に踏ん切りをつけた、とでも返事をすることにした。
――した瞬間に猛スピードでこちらに駆け寄る秀悟が俺の視界に飛び込んできたことには大いな苛立ちを覚えたよ。
最初のコメントを投稿しよう!