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桃色に色づく景色に対してすっかり寂しい耐性が出来上がり、さした感動を覚えることが無くなっているここ最近の俺は正常なのだろうか、と一抹の不安を抱えながら今日もいつもの通学路を歩いて行く。
恨めしいほどに高校生活をエンジョイしていそうな笑顔で友と語り合う奴らを見て「畜生!」と軽く呟くことも最近の変化となりつつあるのだから、あの事件が俺にもたらしたものはとても大きな物であり、それは良い意味とも悪い意味とも取れる運命的な歯車だったと言える。
あの事件……先程説明した超人三人衆との戦いである。
確かに俺にはマカ不思議な能力が産まれつき備わっているようなのだが、その能力はあくまで防御専門だったため、普通の人間よりかは若干しぶといが、武将と呼べる力は持たないという中途半端な立ち位置にて生死の境をさ迷っていた。
とは言えそんな暗黒ヒストリーがもたらした悪い意味の出来事というのは結局のところ、幸せそうな人を見ると思わず「畜生」と呟いてしまう精神状態になってしまったということくらいで、それゆえこれ以上余計な歯車が回りませんようにと最近は度々祈っているのだ。
先日の帰宅時間まできっかり降り注いだどしゃ降りによってまだ少々湿り気を残す通学路には、上空にのびのびとそびえ立つ桜が放っている吹雪が張り付いていたり、所によっては山積みになっている。
風情があるな、と思えれば上等だろうが、あいにく今の俺には趣きやら幽玄なんかをいちいち感じ取っていられるほど心に余裕はない。地面に張り付いた桜は、革靴で歩く俺にとって滑りやすくなる要因にしかならなかった。
踏んだら危険そうな花弁群を奇妙な左右ステップで本能的に避けて進んでいると、春限定の山積み花びらを両手ですくって遊ぶ小学生やらが目に入る。
ひょっとしたらかつての俺もこんなことを?などと、客観視をして初めてわかる己の姿というものに畏怖と羞恥を覚えながら少し足を重くし歩を進めていくと、
静天高校のセーラー服を着た女生徒が、これまた花びらをすくったりして遊んでいるではないか。
「うなっ!?」
辞書を引いても決して現れない感嘆詞を吐いてしまうのも無理はなく、俺のここ数日の記憶が正しいならば、
その後ろ姿は紛れもなく、我が静天高校生徒会長の風上三奈である。
小学生に並んで道端で何してんだぁぁぁ!!
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