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「こんにちはー」
先ほどの鬼の形相とは裏腹に、母はカウンターの若いお姉さんと電話声(中年に良く見られる勝負声? のようなもの)で何やら賑やかに話をしている。
僕はというと、入口脇の椅子で燃え尽きた矢吹ジョーのように真っ白になっていた。
「順也、行くよ」
いつもは終わらない、女性(といってもオバチャンだが)の談義は早々に終わり、僕をさらし者にでもするような、一番目立つ場所に母と二人、座らされた。
(やばっ、カウンターの女の子若いし……しかも、可愛い。すげー恥ずい……)
「シャキッとしなさい! だからアンタ、彼女もできないのよ!」
顔をほんのりと赤らめ、下を向く僕の背中をクリームパンが叩く。と、同時に、カウンターとテーブル二つほどしかない所内に、クスクスと小さな笑いが起こる。
「バカっ! やめろよ、恥ずかしい……」
慌てふためく僕を一瞥し、母は出された紅茶をグビグビと飲んでいた。
「フッ、恥ずかしいのはこっちだよ」
空になったカップと鼻息と、この言葉は、永遠に僕のトラウマになることは間違ないだろう。
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