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(夢?)
不思議なことに、それは現実のような感覚だった。
いつの間にか寝てしまったことを脳が未だ察知してないかのように目に映る情景は鮮明で、懐かしいような、それでいて、ほんの少しだけ胸をキュッ、と締め付けるような――。
「ゆー君」
それはいつも、背後から僕を呼ぶ。
そして、瞼の中に溜め込んでいた涙が瞳を濡らし始め、そのうちに、堰が決壊するかのように溢れ出す。
「ゆー君」
振り返らなくても誰だかは分かる。忘れる訳などない。
それは、お互いを逆の名前で呼び合う、優季と僕だけの……二人だけの約束なのだから。
「ジュン……」
駄目だとは分かっていたとしても、自らの本能はそれを我慢することなどできなかった。
止めどなく頬を伝い続ける涙などお構いなしに、声のするほうへと振り返り、うすぼやけの優季を思い切り抱き締めようと手を伸ばす。
「ジュ……」
指先に触れた瞬間、優季の姿は煙のようにふっ、と消えてしまった。
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