出会い?

1/7
前へ
/7ページ
次へ

出会い?

  「アンタ、ウジウジしてないで、早く来なさいよ!」  大通りを一本入った路地裏の小さな三階建てのビルの入口に、母親の怒声が響く。 「母ちゃん、静かにしてくれよ。ただでさえ恥ずかしいのに……」  買いたてのスーツを身に纏い、両手をだらんとしたまま、のそのそと歩いているのが、僕。順也。(ジュンヤ) 「アンタがのそのそ歩いているから悪いんじゃないの! ほら、早く。約束の時間まで、あと十分しかないのよ!」  そしてこの、紫の鎧……いや、ムチムチの身体で張り裂けそうワンピーススーツを着て、僕の腕を万力のような力で掴んでいるのが、母。政子。(マサコ) 「だって、結婚相談所って……マジねぇし」  結婚相談所。口に出してみると、更に身体の力が抜けて行く。 「駄々こねるんじゃない! あとでお菓子買ってあげるから、ね」  クリームパンのような太い万力は更に力を増し、ギュウギュウと僕をエレベーターに引きずり込んで行く。 「助けて、ママー!」 「バカ!」  バカはどっちだ。  二十七にもなった自分の息子をお菓子で吊ろうとした、アンタも十分バカだろう?  まぁ、五十歩百歩か。  諦めを覚えた脳は、そんなことを考えていた。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加