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出会い?
「アンタ、ウジウジしてないで、早く来なさいよ!」
大通りを一本入った路地裏の小さな三階建てのビルの入口に、母親の怒声が響く。
「母ちゃん、静かにしてくれよ。ただでさえ恥ずかしいのに……」
買いたてのスーツを身に纏い、両手をだらんとしたまま、のそのそと歩いているのが、僕。順也。(ジュンヤ)
「アンタがのそのそ歩いているから悪いんじゃないの! ほら、早く。約束の時間まで、あと十分しかないのよ!」
そしてこの、紫の鎧……いや、ムチムチの身体で張り裂けそうワンピーススーツを着て、僕の腕を万力のような力で掴んでいるのが、母。政子。(マサコ)
「だって、結婚相談所って……マジねぇし」
結婚相談所。口に出してみると、更に身体の力が抜けて行く。
「駄々こねるんじゃない! あとでお菓子買ってあげるから、ね」
クリームパンのような太い万力は更に力を増し、ギュウギュウと僕をエレベーターに引きずり込んで行く。
「助けて、ママー!」
「バカ!」
バカはどっちだ。
二十七にもなった自分の息子をお菓子で吊ろうとした、アンタも十分バカだろう?
まぁ、五十歩百歩か。
諦めを覚えた脳は、そんなことを考えていた。
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