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呼吸を乱すわけでもなく両親の前に顔を出したシンに、裕太は少し驚いたようだった。
「また速くなったな....」
シンの持つ能力のひとつが移動能力だ。
天界を裕太が飛ぶのと何ら遜色ない速さで駆け抜ける。
「父さん母さん、心界へ行くって何しに?」
心界の存在はシンには理解できなかった。
それ以前に下界という場所が何なのかも天界で生まれた神の子には知る由もなかった。
自分以外は下界で生まれた....そして死んでこの天界へ来た。
地獄へ送られる罪人も多数いると聞いた。
凄く悪い事をすれば地獄....
悪い事というのがどんな事かもわからない程に、天国は平和だった。
「じいちゃんだよ....お前を連れて来いってな。」
心界そのものに興味はなかったが、そこには大好きな祖父母と天老院がいる。
祐子にフラれたシンは気晴らしになるだろうという軽い気持ちで両親と共に心界へ向かった。
心界は天国のように下界みたいな街並みがあるわけでもなく、さりとて地獄のように血の池が待っているわけでもない。
何もない。
ただ、広い空間がそこにはある。
大抵の死んだ人間は三途の川管理事務所経由でここに送られる。
この場所で生前の自分を振り返って見る。
誰もが必ず、自分でも気がつかない内に何かしらの過ちを犯している。
そこに悪意が全くない者はすぐに天国へ送られて行く。
多少なりとも悪意があった者はこの何もない空間で1人考える。
自分を省みる。
死んでしまった以上何も繕う必要はない。
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