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天国での騒動など知る由もないシンは洋一郎に会いに澪の家に来ていた。
押越が休暇を使い亡き妻・絵美の実家を訪ねながらの一人旅に出かけ、押越が戻るまではシンも特にやる事がなく、他に行く所もなかった。
「散歩でも行こうか。」
2人は公園へ向かい歩き出した。
「シン君のおかげでまた平和になったけど、そんな事があったなんて誰も知らないんだよね....」
世間では再び自分の欲望を満たすために犯罪を犯す者やイジメ、不登校や虐待、そして自殺者が現れていた。
「俺には良くわからないけど、どうしてみんながもっと仲良く出来ないんですかね....自分1人で生きてるわけじゃないのに。」
シンは祐子を助けてと願った少女を思い出していた。
「大切なものが何かをわかってる人はいるのに....」
洋一郎はシンを見て呟いた。
「何か逞しくなったね。」
2人は最初の散歩で行った河原まで歩いた。
「風が少し涼しく感じますね。気持ちいいなあ....」
秋の気配を感じる風は天国にはない四季をシンに教えていた。
「それにしてもシン君....」
「言わないで下さい....」
いつになったら天国に戻れるのかを思うと気が重くなるシンであった。
「あれ?シン君、あれって....」
洋一郎が風上を見ながら首を傾げた。
「え?何か....あれ?」
シンも何かに気がつき洋一郎の視線を追った。
その先50メートル程離れた場所で立ち止まり、シンを見ている者がいた。
「あれって....あの子だよね?」
洋一郎の嗅覚が西井出小夜を忘れてはいなかった。
シンもその超人的な能力で小夜を確認すると右手を上げて見せた。
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