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夏の蒸し暑い夜だった。
「あんたなんか生まれなければ良かったのに!!」
「うわぁぁぁん!!!!!」
今日も幼い少女は母親から虐待を受けていた。
その小さな体には痛々しい痣がいくつも刻まれ、日々の残酷な仕打ちを鮮明に映し出す。
少女の名は“八坂かりん”
かりんに父親の記憶は存在しない。
まだ彼女が赤ん坊の頃、彼女の母親である彩と父親は離婚した。
そのため、かりんにとって彩はたった一人の家族であって必要不可欠な存在であるはずだ。
しかし、彩は自らが産んだ大切な命を粗末に扱い、日々己の欲望のままにかりんを痛めつけていた。
『生まれなければ良かった』
その言葉とは裏腹に彩はかりんをいつも家に置き、一歩も外へは出さなかった。
【外に出せばかりんが何を言うか分からない。】
そんな恐怖が彩にそうさせたのだ。
いつも彩が家を出るときにはかりんを縛りつけ、逃げないようにと念を押した。
今年で七歳になったかりん。
外のことは何も知らない。
彩以外の人間にすら会ったことは数えるほどしかなかった。
それも宅配に来たピザ屋のお兄さんとか、水道会社のおじちゃんとか、とにかくそんな類の人々しか会ったことはなくて。
テレビを見ては、外の世界にあこがれていた。
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