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「痛くないの?」
明らかにつまらなそうな顔する彩にかりんは無表情のままだ。
「殺してあげよっか?」
にっこり笑った彩。
かりんの耳は彩の言葉を分析していく。
「っぁ…。」
意味を理解したかりんの顔は強張り、彩を見つめたままカタカタと震えていた。
冷や汗がじわりと滲むのを感じる。
彩に対して恐怖を覚えたのは一体いつぶりであろうか。
もう感情というものはかりんにとって無いに等しいもののはずであった。
それでも“死”というものを意識したとき、かりんの遺伝子は頭の中で警報を発した。
「ほら…ね?」
気がつけば先ほどまで振り下ろされていたその手には、小さなナイフが握られていた。
彩の目はさらに輝きを増し、息は荒く興奮というものの絶頂に立っている。
「うっ、あ…。」
しばらく言葉を発していなかったせいで上手く喋ることが出来ずに、かりんは死を覚悟した。
いや、むしろかりんは早く死ねることを何処かで期待していたのかもしれない。
このまま彩の玩具として生きていくくらいなら、死んでしまったほうがずっと楽だということはかりん自身もよくわかっていた。
それでもやはり、本能に抗うことは出来ない。
心は死に期待しながらも、体はナイフから逃げようと必死になっていた。
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