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最初に手が見えた。
次に見えたのはひどく趣味の悪い豹柄のハットだった。
この光景を、どこかで見たことがあるような気がした。――暫く前に流行った映画だ。あれはテレビから這い出てきていたけど、その這い出し方はよく似ていた。
人は本当に恐怖を感じたときには何もできないものだ。あたしは動けなくなってしまっていて、叫んだり泣いたりということも忘れていた。
そこから一瞬でも目をそむける事すらできなかった。そして、男が出てきた。
彼は完全に這い出してくると、服の乱れを整えた。それはよく見ると案外仕立てのよいダークグレイのスーツだった。しかしどこか悪趣味だった。
具体的にどこがどう、と言い表わすのは難しい。
なんとなく気持ち悪い。
生理的に受け付けない。
そんな感じだ。ある種の虫を見たときに起こる感覚に似ている。
そして彼は「引き出しから這いずり出るくらい日常茶飯事ですよ」とでも言うように軽くハットを上げてから、自己紹介した。
「こんにちは、ダクタルです。未来から来ました」
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