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「わかるかね。いや君ごときにはわからぬだろう。」
何せきみは馬鹿なのだから、と青年は笑んだ。
ばさりと布が風を叩く音。コートを翻し、青年が自分に背を向けた。と思った。
全ての光が吸いとられてしまった都会の夜。月すらない。何も見えない。靴の音だけが唯一情報として自分に届く。
そのとき、街灯がぢりりと悲鳴をあげた。それはほんの一瞬だけ瞬いて、青年の後ろ姿を照らした。
「…………」
浅葱色の混じった黒。
ほんの一瞬では詳しい姿などとらえられなくて。ただ、ぼんやりとした視界でそれだけを見た。
「だが恥じることはない。気に病むこともない。」
何せきみは馬鹿なのだから、と青年は笑んだ。
そこで意識はふつりと途切れ、
目覚めたら、いつも通る学校への近道である路地裏に、自分はいた。
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