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学校の保険医はどうにも無駄に真面目で、しつこく問われると厄介だったため、ただの偏頭痛ですいつものことです暫く休めばよくなりますと言い張って、少しベッドでお世話になるだけにした。
「じゃあ、私は今日出張だからもう行くけど、ちゃんと寝るのよ。青柳くんも、はやく教室いきなさい」
「はい」
「はいよ」
保険医がいなくなり、すぐさま布団にダイブする。
安っぽい洗剤の匂いにつつまれて、俺はようやく一息ついた。
袋に詰めた氷を渡され、それを額に押し当てると、それだけでもかなり心地よい。
「大丈夫かよ」
「うんー…」
俺、氷の気持ちよさにうっとり。
「なぁ、赤沼」
「うんー…?」
「ちっと気になったんだけどよ」
「うんー…」
「眼鏡はどしたよ?」
俺、青柳の注意深さにぎっくり。
「確かお前、両目れえてんいちも無かっただろ」
「き、今日はコンタクト」
「いつの間にコンタクトにしたんよ」
「き、昨日」
「てか、赤沼って眼鏡気に入ってなかったか?真面目に見えるからってよ」
「き、気分」
おお、怪しまれてる怪しまれてる。
我ながら、昨日コンタクトにしましただなんて無理があるとは思う。
ましてや、俺は別に常々より眼鏡を嫌っていたわけではない。むしろ、かけるだけで勉強してるように見える眼鏡を心から愛していた。
その俺が。昨日。気分で。眼鏡からコンタクトに乗り換えるはずがない。
「…ふーん」
「……………」
治まってきた頭痛がぶり返しそうになるくらい、鋭い視線だった。
「…まあ、いいけどよ」
いいんか。
諦めたようなため息をはいて、青柳は鞄を取り上げて、そろそろ教室いくよと俺に告げた。
「あれ?俺の鞄も持ってくのか?」
「一応。お前がちゃんと朝から居るってこと、見せとかないとよ。松ちゃんきついもんよ」
「あー…」
「じゃ」
そう言って、青柳は二つのでかい鞄を抱え直した。
がらがらがらと保健室の引き戸をあけて、それから振り向いて、俺にひらひらと手を振る。
俺もそれに振り返した。
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