一幕~日常~

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 歯科衛生士の仕事にはやりがいを感じていた。    ーー幼い頃、大抵の子供と同じように、優子も歯医者が大嫌いだった。虫歯をつくるまいと毎日歯磨きには全身全霊をそそぎこんでいたつもりだったのだが、その努力もむなしく、磨き足りていなかった奥歯に虫歯ができてしまった。  母に連れられ歯科へ行く道中、怖くて逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。特に待合室は地獄だった。ドアを隔てた向こう側からは『チュイーン』と甲高い恐ろしげな機械音が鳴り響き、その音を聞くだけでソファ席と太ももの間は汗でぐっしょりになる。
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