二幕~戸惑い~

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 自宅アパート周辺の店はだいぶ把握できていた。歩いていける距離に安いイタリアンの店がある。  安いといっても味はなかなかのもので、若いカップルや女性の二人組、また、優子のように仕事後に一人で夕食を摂りに来ている女性も少なくない。  女性の一人での食事というといかにも寂しいイメージを持たれることが多い。けれどもこの店は違った。夫婦が経営している老舗で、まるで家族のようにあたたかく出迎えてくれる。こんなふうに一人を赦してくれる店が増えればいいのにと、優子はよく思う。    「お待たせ致しました。鮭とホウレン草のフェットチーネです」    店の奥さんが運んできた木製の皿からは、食欲をそそるクリームソースの匂いと、やわらかな湯気が立ちのぼった。
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