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この街に越して来ればトラウマを克服できると信じていた。いや、正しくは願っていた。彼女の願いはいつも聞き入れてはもらえない。
「朝比奈さん、診察室へどうぞ」
四十代半ばぐらいのベテラン看護師に名を呼ばれ、リノリウムの床を足早に歩いた。
「いかがですか?調子は」
向き合って座っている小柄な女医は、右手に青いボールペンを持ち、患者に優しく問い掛ける。
「はい……だいぶ眠れるようになってきました」
長い睫毛が生えそろった目をゆっくり瞬きしながら、優子は答えた。
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