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その夜はなかなか寝付けなかった。
自分の小説を楽しみにしてくれる人がいて、それを手に取れる形にしてほしいと望む人がいる。
本来なら手放しで喜び、事務局に二つ返事でOKしたいところだが、優子の場合は特殊だった。
自分の分身として文章で表現したつもりでいた、物語の主人公。彼女はもはや自分の姿からは遠ざかり、ただの理想像となってしまっている。おまけに自分の未来も、《千恵》の物語の続きも全く見えてこない。
むしろ過去に苦しみ続けるのではないかとすら思う。そんな話を書くくらいなら、続きなんてなくていい。
優子には《甘く、芳醇な君へ。》を完結させる自信がなかった。
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