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処方箋は前回と同じ。不安をやわらげ、自然な眠りへといざなってくれるデパスという薬だ。
病院から出ると、空には薄雲が広がっていた。ピンクのムーヴラテに乗り込みキーを回すと、ボサノヴァの音色が車内を包みこんだ。優子はこのところ穏やかな曲を好んだ。心の安定のためには音楽とあともう一つかかせないものがある。
「いらっしゃいませ」
白を基調とした清潔感のあるカフェへと足を踏み入れる。華奢な体型の若い女性スタッフが手際よく水の入ったグラスを持って来た。
「ホットをお願いします」
「かしこまりました」
注文を告げると、ハンドバッグから携帯電話を取り出す。
《甘く、芳醇な君へ。》
その携帯小説のページを開き、しばらく《削除》の文字を見つめる。けれど何もしない。
ホットコーヒーが運ばれてくると、優子は砂糖もミルクも入れることなくカップに薄い唇を当てたのだった。
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