第三色

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      さて、と。柊が喫茶店に初めてやって来た日から早くも数日が経過した。   どうやら、柊は普段桜華高校で過ごす時はずっと図書室にいるらしい。 授業に出席しなくて単位は足りるのか?と聞けば、何故か校長公認らしく大丈夫との事……もしかしたら、その件についてはマスターが絡んでいるのかもしれないな。       と、言うわけで俺は昼休みと放課後には必ず図書室に居る。 俺は柊と違い、授業に出なければ単位が足りなくなるからな。   ちなみに今は放課後。 やはり図書室に俺は参り、柊とは少々離れた箇所で本を黙読している。 本のタイトルは、前に返却をした"光と闇の交響曲"だ。       決して交わることのない二つ。 それを二人の人間と化して具象化させて分かり易くしたもの。 交わらぬ……が、如何にして交わらんとする為に幾度なる試練や苦境、逆境を乗り越えていく作品。   未だに最後まで読み切ってはいないから、結末がどうなるか分からない。 結末が気になるが、今急かして読み進めばきっと後悔するだろう。       俺はそんな後悔はしたくない。例えいくら時間を掛けようとも、焦らずゆっくりと歩を進めていきたい。   ……まるで、柊みたいだな。この作品の光と闇と言うのは。 光と闇のどちらかが柊になり、もう片方はまた新たな人物になり。               そんな事、どうでも良いか。 柊は柊であって、何にも比較する対象物は無いのだからな。       そろそろ校舎を閉めるであろう時間帯になり、俺は読んでいた本を元あった場所に返却した。 そして、静かに図書室から出て、喫茶店へと歩き出した。                           校門付近で俺は、左腕に微かな違和感を感じ取った。この違和感はここ数日、毎回続く。 その原因は、左袖をこヂンマリと摘む一人の少女。   その少女は無表情、だがその無表情の中にも微かに見える照れの感情。その感情は本当に微かで、初見の奴には分かり難い程。       「行くか」   「……ん」       俺と少女――柊は、柊が俺の左袖を摘みながら歩く、と言う奇妙な組み合わせ。   一応、俺はこの街で有名人となっている。マスターの下で働いていると、何かしら有名になってしまう。    
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