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痛む腕を我慢して数秒、みつねさんは俺の手を離して柊の前に立った。
「甘えたらええよ…ずっと一人やったもんなぁ…寂しかったもんなぁ…。
少なくとも今の飛鳥はんには、ウチや睦月はんがおる。初対面なウチに、と言うのも難やけど、睦月はんは飛鳥はんの想いを裏切らへん」
「…別にいらない」
「………そか。いらんお節介やったか…ごめんな」
この言葉のやり取りは俺にも聞こえた。
みつねさんなりのアドバイスなのかもしれないが、柊は聞く耳を持たないらしい。
そんな柊の態度を見たみつねさんは怒ることは無い。むしろ笑顔だった。
だが、俺にはみつねさんの心情が何となく読めた気がした。
「ウチはこれ位で退散するさかい。後は二人でいちゃいちゃしいや」
「残念ながらみつねさんが考えるような関係では無いので有り得ません」
「いちゃいちゃなんかしないのー…!」
ほぼ同時に反論した俺達を見たみつねさんは軽く吹き出すと、体を反転させて片手を上げてひらひらと手を振る。
「ほな、また今度なー」
そう言ってみつねさんは家の扉を開けようと鍵を取りだそうとしていた。
俺達もみつねさんに別れの挨拶をすると、踵を返して帰路を歩き出した。
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