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それからは、沈黙と言う名の魔物が俺達を支配したままだった。
柊とは適当な場所で別れた。
向こうは俺を快く思ってはいない。ならば無理に送るのは良しとしないだろう。
一人で自宅へ向かっている最中、パタパタと足音を鳴らして後ろから誰かが走ってきた。
こんな時間に誰が――
「鍵無くしたぁーっ!」
みつねさんだった。
「格好悪いです」
さっきまでは凄い格好良く去っていったのに、今ではビエーッと泣いている。
どさくさに紛れて泣きながら抱きつかないで下さい。
しかし鍵を無くしたのは本当のようで、今から探すにはあまりにも不可能に近い。
鍵屋も閉まっているだろうし……マスターなら何とかなるが、流石にこんな事で頼む訳にはいかない。
…ならば必然的に…。
「俺の家で良ければ泊まりますか?外は寒いですし。
ですが、男の家に泊まるのは色々と覚悟して下さいよ?」
「面目ないなぁ…でも、ウチは睦月はんなら何されてもかまへんよ。ま、睦月はんはそんな事をする程の人間ではあらへんって知っとるさかい…一番安心できる人なんよ」
背中に顔を埋められて呟かれ、最後の弱々しい言葉が心に深く突き刺さった。
「では、行きましょうか」
「手…繋いでぇな…ウチ若干鳥目なんや」
おずおずと出された手を、何の躊躇も無く握り締めた俺は、鳥目なみつねさんを気遣いながらゆっくりと帰宅したのだった。
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