第一色

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      しばらくの間、俺は本を読んでいた――が、それは中断させられた。何故ならば、俺が今現在居る図書室に一人の女性がやって来たからだ。   恐らく、図書室の管理人だろうか…?図書室を閉めるらしき鍵を持っているし、時間帯もかなり遅い。       「ん、ようやく来てくれた」   「あら?まだ残っている生徒が二人も居たのね…?」         二人だと?   ふと辺りを見回してみると、なる程、確かに俺以外にもう一人の生徒がいた。 そいつは窓際の更に端…要するに隅っこで黙々と本を読んでいる。     何故、そんな端で本を読んでいるのか、と言う疑問が浮かぶが他人の俺が深く詮索するのは失礼に値するだろう。   故に俺はそいつを気にはせず、先程入ってきた女性に読んでいた本を返却したいと申し入れた。         「うん、確かに返却されました。最近の生徒は返却期日を守らない人が多いのよねぇ……でも、こんな本を借りるなんて、あなた結構精神的に来ているらしいわね」   「余計なお世話ですよ。偶然手にとって読んだら、少し興味を惹かれただけですから」       ふーん、とやる気の無さそうな声を漏らす女性……面倒だから管理人としよう。 管理人は図書室に設置されているパソコンを弄り、本の裏表紙に書かれている文字の羅列を打ち込む。   その作業はすぐに終わり、管理人はポンッと手を叩いて一息ついていた。       「はい、おしまいっと。もうそろそろ図書室…と言うか校内を閉じるから、あなた達ももう帰りなさい?」   「分かりました」     「………」         俺は立ち上がり、管理人に一礼してから図書室を出て行った。 同時に、もう一人の生徒も図書室を出て来た。     一応互いに生徒なわけであるし、昇降口も同じ場所である。 他人同士、気まずい雰囲気になるが…どうも距離感がおかしい。明らかに三メートル後方をキープしながら歩いている。   ちょうど俺の靴紐が緩み、結び直している時もやはり、三メートル後方で立ち止まっていた。     ……何故立ち止まる必要があるのか…?いやいや、他人の思考に俺が介入する意味はない。         俺は立ち上がって、邪魔にならないように廊下の壁の端に立って通り過ぎるように待つ。    
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