1067人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
待って、いたんだが……そいつは何故か先に行こうとはしない。
このままでは埒が開かないから、俺から話しかけてみた。
「俺がいると邪魔になりそうだからな。先に進むと良い。俺はゆっくりと帰らせてもらう」
「………」
そいつは、俺と正反対の廊下の端を通り、限界まで俺と距離を取りながら逃げるように走り去っていった。
やはり、俺がいたら邪魔だったようだ。俺はどうせマスターのいる喫茶店のバイトがある。
精神的にきていると言われた俺は、少々落ち込みながらバイト先へと向かうことにした。
喫茶店へと到着するとすぐに、喫茶店で働くための仕事着に着替える。
ウェイター服に着替えると、喫茶店の店長であるマスターが出迎えてくれた。
そう言えば、マスターに頼みごとを伝えるように頼まれたんだったな。
俺は忘れないうちに、マスターに桜華高校の教師に頼まれた内容を伝えた。
何故か、マスターに接触できる人間は限られているらしい。
マスターは神出鬼没で、喫茶店のバイト以外の時間帯は何時、何処で何をしているか不明だそうだ。
確かに、そう言われてみると、俺自身マスターを喫茶店以外で見かけたことがない。
もしかしたら何か秘密の研究をしているとか……って、そんな事ある訳ないか。
「そうそう睦月君、今日はどうやら厄介な出来事を身に受けなかったかい?」
「……いえ、そんな事は一切ありません。強いて言うなら、不思議な女生徒に出会った…ですかね」
そう言うと、マスターはうんうんと頷き、俺に一枚の紙を差し出してきた。紙を受け取ると、それにはこう書かれていた。
今宵、睦月君の自宅前で恐らく桜華高校の生徒を見かけるでしょう。
決してその人を一人にはさせないこと。万が一、一人にさせてしまった場合……
何ともピンポイントに伝える文章だろうか。
マスターの方を見ると、占い時に使うようなタロットカードを右手に持ちながらニコニコと笑顔を作っていた。
最初のコメントを投稿しよう!