1067人が本棚に入れています
本棚に追加
出入り口に足を運び、テーブルまで移動させようと客の顔を見たところ、見知った顔であった。
昨晩鍵を無くしたと言ってウチに泊まったみつねさんが喫茶店に来ていた。
「やっほー睦月はん。憩いに来たでぇー」
「みつねさん、鍵は見つかりましたか?」
質問してみると、みつねさんは歯切れの悪い笑みを浮かべた。
しかしすぐにポケットに手を入れ、みつねさんの家の鍵らしき鍵を取り出して見せてきた。
「ついさっき見つかったんや。睦月はんにはエラい迷惑掛けたからなぁ…体で報酬を支払おうかと思うて」
「結構です」
「んぁっ!?かかか勘違いしたらあかんよ!?べ、別にやらしい意味とちゃうからな!?」
まだ何も言っていないのに。
みつねさんは何やらもじもじと目の前で指をつつきながら、顔を背けて呟いた。
「そんでな…う、ウチがこの喫茶店で働いて睦月はんのお手伝いをやな……」
「マスターの許可は?」
「せやから、睦月はんにお礼を言うついでにそれを得ようかと思うてここに来たんや」
なるほど。
しかし新たに従業員を増やすほどこの喫茶店は赤字ではない。マスターが居る限り赤字にはなるはずが無いのに。
だが、俺は俺とマスター以外にこの喫茶店の従業員を見たことがない。もしかしたらこの喫茶店は俺とマスターだけで経営しているのでは…?
マスターにみつねさんが先程の事を頼みに行くと、二つ返事でみつねさんは即採用された。
時に、みつねさんは雑貨屋と掛け持ちするのだろうか?
「んー…はは…辞めてもうた」
「バカですね」
「なっ…!?」
おっと本音が。
「だ…だって…睦月はんの力になりたかったんやもん…」
「で、本音は?」
「飛鳥はんが心開くの――」
バッと慌てて口を手で覆うが、大体予想は出来た。
柊が対人恐怖症とか何とかだから、それを解消するために喫茶店を利用する…と。
「やっぱりバカですね」
「酷いっ!!ウチだって真剣に考えてやな…!!」
「柊は少し人見知りをするだけで、ある程度会話を交わせば普通に慣れていますが」
俺が良い例だろう。
最初のコメントを投稿しよう!