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みつねさんが喫茶店のバイトに加入してから数日が経過した。
元々みつねさんは雑貨屋で働いていたこともあり、接客は完璧。特徴的な口調も客には好印象を与えていた。
ただ、この数日で気になった事が一つある。
「おっ、飛鳥はんよう来たなぁ。いらっしゃいー」
「……ん」
そう。
柊 飛鳥が最近、この喫茶店を利用し始めたのだ。
何の風の吹き回しか分からないが、時々やって来る。
勿論客なので、俺とみつねさんのどちらかが対応するわけなのだが…。
「………」
「ほほー、なるほどなぁ」
「………」
「んなっ、ほんまかいな!?」
「………」
「そうなんや…睦月はんがセクハラを…」
ちょっと待て。
「うん?何や睦月はん?」
柊の声は極小過ぎて聞こえない。みつねさんは普通の声量で会話しているが、何やら引っ掛かった。
確か、俺がセクハラをしただとか何とか……。
「………」
「胸を触ったやってぇ!?」
ちょっと待て。
「睦月はん!!それは立派なセクハラやで!?…そ…そんなに触りたいならウチのを触れば…」
「黙りなさい逆セクハラ」
ズーンと落ち込むみつねさんは放っておき、俺は元凶の柊と対面する。
柊は注文していた紅茶を手に取り、目線をずらして口に含んでいた。
「いつ、俺がそんな事をした」
「んく……おんぶ」
ようやく聞き取れた柊の声。
紅茶を飲み込んだ後に呟かれた一言は、かなり前の出来事であった。
かつて柊を背中に背負いながら喫茶店へ連れてくる途中に会話した内容の事を言ってるのであろう。
「言っておくが、俺は背中に乗せる気は無かったんだが」
「……紅茶美味しいのー」
露骨に話を逸らした。
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