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取りあえず使い物にならなくなったみつねさんをスタッフルームに放り投げ、柊から券を半強制的に奪取して有効期限とやらを確認する。
その際大慌てしていた柊。
今も尚、俺の腹をぽかぽかと殴りながら睨みつけてくる。
怖くはない。
痛くもない。
有効期限が書いてある箇所に目をやると、どうもその文字だけ他の人が書いたような字をしていた。
有効期限以外の文字は全て同じ筆跡だが、これだけは違っている。一体誰が書いたんだ?
「…………」
「……私じゃ…ない」
目を逸らしながら言っても、説得力は無いんだが…。
殴るのは止まったし、俺と絶対に視線を合わせようとしない。十中八九、柊が書いたのだろう。
しかし厄介なのはこの有効期限である。何を思ったのか、書いてある内容はこうだ。
“潰れるまで”
凄く…不吉です…。
いや、喫茶店が潰れる可能性は無に等しい。マスターが居る限り、有り得ない。
仮にマスターが居なくなろうとも、俺が喫茶店を経営する。学生時ならば退学し、社会人ならば退職しよう。
俺は喫茶店が好きだから。
閑話休題。
柊が書いた有効期限は有効期限として効果はなく、実質無期限である。紙を燃やそうにも、破ろうにも、恐らく再び券は新しくなって柊の下へ舞い戻るだろう。
仕方がない。
券については暗黙の了解とでもしておこうか。
「はぁ…瑞希さんの行動は読めん…」
「愛ですよ、愛」
おわっ!?
いつの間にか背後に瑞希さんが立っていた。耳元でボソボソと呟いた後、耳を甘咬みしてきた。
ぬるぬるして気持ち悪い。
「………!?」
「いい加減にして下さい瑞希さん。柊が怖がってます」
マスターの後ろでカタカタ震えている柊を指差しながら瑞希さんに退くよう言うが、むしろ柊に見せつけるように腕を首に巻き付けてきた。
なるほど、首を締めて窒息死させるつもりか…!
「あむっ……あらあら飛鳥ちゃんったら…お顔が真っ赤ですよー?」
「ひぅっ…!?」
「離せ」
邪魔だ邪魔。
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